男と女の物語

とても寒い朝、
急に美味しいコーヒーが飲みたくなって、一人近くの喫茶店に向かった。
ドアを開けると、もう店内にはコーヒーの芳しい香りがたちこめ、
一人でやって来た事は正解だったとほくそ笑む。
少し遠慮しながらも、若い二人連れがいる隣の席に腰を下ろす。

凍えた両手に熱い息を吹きかけながら、コーヒーの銘柄を選んでいると、
不意に隣の席の女の子が泣き始めた。

うちら3年も付き合っとるのに、なんで1周間前に知り合った子の方がいいん?
うちらの3年は一体何だったんね!


「うちらの3年」を振りかざすその人は、
きっと一睡もしないでやって来たのだろう。
髪はボーボー、化粧気はなく、泣きはらした顔。
室内着に上着を羽織っているのだが、その姿はもうすでに負け犬だ。

美味しいコーヒーがほろ苦く感じる、、、。

おお、可哀想な人よ。
男と女の間で、年月なんてなんの役にも立たない事を知らないの?
幸せだった長い時間は、たった1日、いや1時間で消え去ってしまうのは男女の仲の悲しいさだめ。
これからあなたは幾度もそんな悲しい想いをしながら、それでも又人を好きになる。


必死で取りすがる女性に、男は冷たく言い放ち去って行った。

ごめん、もう無理だから。
じゃ、元気でね。


店内にその気の毒な女性と二人っきりになったような気まずさを感じつつ、
少し冷めてしまったコーヒーをズルズルすする私だったのだが、
突然、本当に突然、私は話しかけられてしまった。

私、いったいどうしたらいいですか?
死んでしまいたい、、、。


うう、困った。
ああ、一人で来るんじゃなかった、、、と後悔しつつ、
昔ピアノのレッスンにやってきた年頃の生徒に言い含めたと同じ言葉をかけた。

悔しかったら、もっといい女になりなさい!
いつかどこかで、その男とばったり出会った時、
「ああ、惜しいことをした!」
と思わせるような、中身も外見もいい女になるしかないのよ!


やっと笑った。
寂しげな笑いではあったけど、頷きながら笑ってくれた。
又いつかバッタリここで会えるといいね、、、、
そう言って見ず知らずの私たちは、連れ立ってその店を出たのだった。


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by dori3636 | 2016-01-14 11:28

花と野菜と時々ゴルフ


by dori3636